京王井の頭線浜田山駅近くにある本格的なフリーウェイト特化型ジム、パワーフィットスタジオZEROの義田です。

パワーリフティングという競技をやっていると、いかにBIG3(スクワット、ベンチプレス、デットリフト)全体を伸ばすことの難しさを痛感します。
人それぞれ得意/不得意種目があったりして、意外にもバランスのとれた競技なんだなぁ~という感想です。
今回は特に両立の難しいベンチプレスとデットリフトについて、何故両立が難しいのか?両立させるためにはどうしたらいいのか?を考察していきます。
私自身は83㎏級のベスト記録がベンチプレス170㎏、デットリフト252.5㎏と割と両立できた選手だと思います。
(最近はデットリフトが伸びた代わりにベンチプレス170→165㎏と重量落ちましたが笑)

パワーリフティング
当ジムのランキング表、永井選手はベンチプレス145㎏にデットリフト280㎏と明らかにデットリフトタイプな選手となります。
デットリフト
筆者のベンチプレスとデットリフトを両立できているのは腕が長い体型が要因か?
ベンチプレス
私のベンチプレスはストローク(可動域)が長いのが特徴です。昨今の肘ルールも加味すると、高いブリッジだけでなく、強く押すために前鋸筋などの機能向上が大切だと考えています。

ベンチプレスとデットリフトの特異性

ベンチプレスとデットリフトはそもそも上半身種目と下半身種目という大きな違いがあります。
一見すると相関性のない両種目の両方がなぜ難しいのでしょうか?

ベンチプレスに有利な条件

ベンチプレスに有利な条件を身体的(骨格や筋肉)な要素から考察していきます。

ストローク(可動域)を短くする

同じ力(筋力)でも距離が短い方がより重い重量を扱うことが出来ます。
例えば、スクワットでフルボトム<フル<ハーフ<クォーターの順番に重量を持てるようになります。

ベンチプレスのストロークは、ラックから外して腕を伸ばしたところから胸にバーベルが付くまで距離になります。

ストロークが短くなる要素として、

・腕が短い
→開始点が低いためストロークが短くなります。
ルール上、81㎝ラインに人差し指までしか手幅を広げられないため腕が短い方が有利です。
また、後述しますがトルクモーメント(てこの原理)の観点からも、腕が短い方が強い力を発揮しやすいです。

・腕の前腕部分が短い
→腕の長さだけでなく前腕/上腕の比率も大切になります。
上腕と比較して前腕が短い方がストロークが短くなるため有利と言えます。

参考文献:The Strength Training Anatomy Workout lll

https://www.amazon.co.jp/Strength-Training-Anatomy-Workout-Maximizing/dp/1492588512

・大胸筋が発達している
→大胸筋が発達して厚くなるとブリッジが高くなりストロークが短くなります。
後述する押す力においても大胸筋の厚さは重要になります。

・胸椎/肩甲骨の柔軟性がある
→肩甲骨が下制/内転/後傾しているとブリッジが高くなるだけでなく、肩関節が後方へ移動し腕も短く使えるW効果を期待できる。
後述する押す力においても、肩甲骨を後傾させて胸を立てると押す角度がデクラインベンチプレスに近くなり有利になります。

ベンチプレス
肩甲骨の後傾によって肩関節が後方へ移動します。


・いわゆる後ろ肩である
→肩関節と上腕骨頭の位置関係が、先天的に後方に位置している後ろ肩だとストロークが短くなります。
逆に前方に位置している巻き肩/前肩だと不利になることが考えられます。
もちろん、筋肉バランスなどでも巻き肩⇔後ろ肩と姿勢が変わってきますが、先天的な骨格の点でも影響はあると思います。

肩甲骨
肩関節と上腕骨頭の図、骨格的な個体差か?

ケンダルの姿勢分類において、カイホロードシス、フラットバックのタイプだと肩甲骨が外転(巻き肩/前肩)しやすく、ベンチプレスで不利になるのかな?と考えています。

ケンダルの姿勢分類

参考文献:ケンダルの姿勢分類 『姿勢評価とエクササイズの教科書』2023 – note

https://note.com/forpt/n/n9b63515e8167

以上がベンチプレスで有利になるストロークの観点で説明しました。
しかし、昨今の肘ルール導入によって一概にストロークが短い方が有利とは言えない状況になりました。
一定のストロークを確保しつつ、押す力を強く発揮できる方向性も大切になります。

肘ルール
新ベンチプレスルールの肘において、三角筋の中心点と肘先端を結んだ線が平行以上に深いことが必要となりました。(2023年6月時点)

参考文献:日本パワーリフティング協会「ベンチプレス新ルールの肘判定について」

https://www.jpa-powerlifting.or.jp/pdf/technical23-4.pdf

押す力を強くする

先ほどストロークの話をしましたが、そもそも押す力が強ければ高重量を持てます笑
押す力を決める要素を説明します。
・胸(大胸筋/小胸筋/前鋸筋)、二の腕(上腕三頭筋)、肩(三角筋前部)が発達している
→ベンチプレスにおける主働筋、協働筋が発達してこの部位の筋力が強ければ押す力も強くなります。

・腕が短い
→腕が短い方とトルクモーメントの観点から強い力を発揮できます。

・押す角度をデクラインに近づける
→例えば、一般的にはショルダープレス<インクラインベンチプレス<フラットベンチプレス<デクラインベンチの順番に重量を持てます。
このように押す角度によって使う筋肉の割合が変化し押す強さが変化します。
肩甲骨が後傾して胸椎が伸展していると、フラットベンチプレスでもデクラインベンチプレスのように胸の筋力を十分に発揮(大胸筋下部まで)できるようになります。
先ほど説明した後ろ肩の姿勢だと、より肩甲骨が後傾しやすく有利になると考えられます。

ベンチプレス
ベンチプレスのブリッジで胸が立つようになると、より力強く押せます

・脚、腹筋(腹圧)、前鋸筋が共同してブリッジが安定している
→高重量になるとブリッジが潰れてしまい力が発揮しにくくなります。
このときにただブリッジを組むだけではなく、脚の力(レッグドライブ)が重要になります。
また、レッグドライブのみだとお尻が浮きやすいので、腹圧や前鋸筋の力によって前面と背面を拮抗させて安定させる必要があります。
スクワットで例えるならば、担ぎで背中を固めて腹圧によって前面も固めることによて体幹が安定するイメージです。

ベンチプレス
脚で押込みつつ腹圧を掛けてブリッジを安定させます。

デットリフトに有利な条件

デットリフトに有利な条件を身体的(骨格や筋肉)な要素から考察していきます。

ストロークを短くする

デットリフトも同様に引く距離であるストロークが短いほど有利といえます。

デットリフト
床に置いた状態のバーベルからフィニッシュポイントでの高さの差になります。

ストロークが短くなる要素として、
・身長に対して腕が長い
→腕が長ければその分、バーベルを引く距離が短くなるため有利になります。
また、腕が長い分、上体の前傾を抑えて引けるため後述する引く力が強くなります。

・なで肩/巻き肩気味
→なで肩で巻き肩気味あれば肩関節の位置が下がるので腕を長く使えます。
肩をリラックスすると肩関節の位置が下がるのでその分腕が長くなります。
ベンチプレスでは不利になったケンダルの姿勢分類でいうところのカイホロードシス、フラットバックのタイプだとデットリフトにおいては有利になるのかな?という印象です。

引く力を強くする

・お尻(大殿筋)、もも裏(ハムストリングス)、腰(脊柱起立筋)、背中(広背筋)が発達している
→デットリフトにおける主働筋、協働筋を鍛えて発達させることで、床から引く力が強くなります。

・腹圧を掛けて体幹部を安定させる、ももの力(大腿四頭筋)も使えるようにする
→先ほど説明した引くための筋肉が発達していても、全てが上手く連動していないと十分な力が発揮できません。
主に体幹部の安定が大切になり、適正な呼吸によって腹圧を掛けることが大切になります。
体幹部が安定すればもも(大腿四頭筋)の力も使えて挙上できるので、より高重量を扱うことができます。

・上体の前傾を抑えた状態で引けるようにする
→上体の前傾を抑えた方がモーメントアームの観点から強い力が発揮されます。
先ほど説明した腕が長い方が強い力を発揮するという観点からも有利になります。
腕の長さ自体を変化させることは難しいため、肩甲骨を下げるなど腕を長く使えるように工夫することが大切です。

腕が長い方が上体の前傾を抑制でき、股関節とバーベルの距離が短くなる分強い力を発揮しやすくなります。

・ファーストプル時の腰の位置や上体の角度が適正である
→よくあるエラーとして腰を落とし過ぎた状態で引き、下半身/体幹部が負けてお尻が跳ね上がり結果的に上体が寝てしまうフォームになることです。

デットリフト
ファーストプルで上体が寝てしまい、脚の力ではなく腰や背中のみの良くない例 笑
腰を落とし過ぎず上体を寝かせて過ぎず…。
首を長く保って浅いスクワットを実施するイメージで。

意外かも知れませんが、ややつま先側重心で腰を落とし過ぎないようにデットリフトすることをおススメします。
脚の力を使おうとして、踵重心で腰を落とすフォームで実施すると結局、脚と体幹部が負けて前傾姿勢で引くことになりがちです。

ベンチプレスとデットリフトの両方が難しい要素

腕の長さによるもの

腕の長さに関しては確かに長ければデットリフト有利ベンチプレス不利、短ければデットリフト不利ベンチプレス有利となります。
私自身、実は腕が長く、今までベンチプレスが強かったのは努力の賜物かもしれません笑

腕の長さ自体を調整するのは無理なため、別の項目を意識すると良いでしょう。

前肩と後ろ肩の違い

腕の長さ以外の要素としては、ベンチプレスの強い人は後ろ肩で胸板が厚いイメージ。
デットリフトが強い人の体型はなで肩で前肩、胸板はそこまで厚くないのイメージです。

例えば、後ろ肩の人はベンチプレスはそのまま強みを生かして、デットリフト時になで肩/前肩になるように意識します。

ボディビル
こんな感じで、モストマスキュラーポーズを意識できると良いでしょう。この際に肩が前にせり出し過ぎない(肩甲骨が外転しないように)ことを注意しましょう。

前肩気味の人は、デットリフトはそのままに、ベンチプレス時は肩甲骨を後傾できて肩関節が後方に移動できるように工夫しましょう。

ベンチプレス
肩甲骨が後傾できるように、日々のエクササイズや補助種目を組むと良いでしょう。

どちらにおいても、得意/不得意あると思いますが競技に応じて両方の姿勢を取れるように、日々のエクササイズなどでアライメントを徐々に調整していくと良いでしょう。

コンディショニングに関しては過去記事「バーベルを触らずにBIG3を伸ばす!?コンディショニングとは何か?」を参考してみてください。

https://power-fit-studio-zero.com/chx55119/need-for-conditioning/

背中の疲労管理の難しさ

単純にデットリフトにおいて高重量が扱えることで、脊柱起立筋/広背筋/僧帽筋/前鋸筋が疲労してベンチプレスのブリッジへの悪影響があります。
デットリフトの翌日はベンチプレスを実施せずにオフにするのがオススメです。
また、ベンチプレスの練習前はそれらの筋肉の緊張を抑制するエクササイズを取り入れると良いでしょう。

脊柱起立筋の強/弱の違い

脊柱起立筋が強ければスクワットやデットリフトの体幹部が強くなり、より高重量を扱えるようになります。
脊柱起立筋が弱いメリットとして、ベンチプレスのブリッジが組みやすくなると考えています。
ブリッジは胸椎が伸展し、なるべく腰椎が伸展しない方が良いとされていますが、やはりより高いブリッジをするために腰椎の柔軟性、脊柱起立筋の弱さもメリットになると考えています。
ベンチプレッサーならば脊柱起立筋の柔軟性がある状態で練習するだけで良いですが、パワーリフティングでは脊柱起立筋の強化は欠かせないため、脊柱起立筋の緊張を抑制するエクササイズをベンチプレスの練習前に取り入れるようにしましょう。

肋骨内旋と外旋の違い

肋骨内旋したほうが腹圧が強く掛かり体幹部がより安定します。
スクワットやデットリフトにおいては肋骨内旋+腹圧を掛けることはマストスキルとなります。
ベンチプレスにおいては、逆に肋骨外旋した方がブリッジが高くなる印象があります。
しかし、昨今の肘ルールやお尻の判定基準の厳しさでは、ブリッジの高さよりも安定感をより重要視するため、ベンチプレスのブリッジでも肋骨内旋を意識した方が良いでしょう。

ベンチプレスとデットリフトの両立させるためのポイント

腕の長さを自体を調整するのは骨延長/短縮手術しかないので実質不可能です笑
前肩や後ろ肩も先天的な要素もあるので変化させるのはなかなか難しいです。

シックスパック
永井選手はなで肩、前肩な体型をしてます。僧帽筋が異常に発達しているのもポイントです。
ボディメイク
義田選手は後ろ肩/若干いかり肩で、大胸筋が発達しているのがポイントです。

仮想的にデットリフトでは腕を長くしたり、ベンチプレスでは腕を短くしたり、前肩や後ろ肩に変化させることができます。
ここでポイントになるのが肩甲骨や胸椎の柔軟性、前鋸筋の機能改善、肋骨内旋になるでしょう。

コンディショニングに関しては過去記事「バーベルを触らずにBIG3を伸ばす!?コンディショニングとは何か?」を参考してみてください。

https://power-fit-studio-zero.com/chx55119/need-for-conditioning/

まとめ

一般的に、ベンチプレスとデットリフトの両立は難しいとされています。
その理由として、
・腕の長さの違い
・姿勢(前肩や後ろ肩)の違い
・肩甲骨の可動域の差
・背中の疲労管理の難しさ
・脊柱起立筋の柔軟性
・肋骨内旋と外旋の違い
があげられます。

両立の秘訣として、
・コンディショニングによって、ベンチプレスでは腕を短く、デットリフトでは腕を長く使えるようにする
・ベンチプレス練習時は脊柱起立筋、広背筋、僧帽筋の緊張を抑制する
・肩甲骨の下制、後傾ができるようにエクササイズを組むこと
・ストロークの長いベンチプレスのため、肋骨内旋と前鋸筋の活性化を意識する
などを意識してトレーニングすることで両種目の両立できる可能性が高まります。

是非、今回の考察記事を参考にして、自身のBIG3トレーニングに取り入れてみましょう。
ベンチプレスとデットリフトが両立出来れば、大幅なBIG3トータル重量向上間違い無しでしょう!

以上になります!
当パワーフィットスタジオZEROでは、他のフィットネスジムよりもフリーウェイトに特化したフィットネスジムであり、トレーニング中級者以上の満足度の高い良いトレーニング環境となるでしょう!
あと、パーソナルトレーニング指導もしておりますので、スクワット、ベンチプレス、デットリフトをしっかりと学びつつ、他のダンベルやマシン種目なども学んでボディメイクもしたい方にもおススメです。

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